冒険記
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いつも素敵な詩や叙情的な世界を展開してくれる、 素敵作家のレン様。 魂の撫でられる作品をここに展示させていただきます。
帝國史書係 セイチャル・マクファロス
キャラ紹介 ソウ 楽しい事が大好きなC調冒険者。今日も今日とて我が道を行く。 リュウ 現在、性別が中性な魔法生物。 将来美人になるであろうと確信しているソウは、なんとか女の子の方向へ行くように頑張っているが、当の本人は男の子になりたい模様。生真面目な性格な為、ソウの行動で胃を痛める日々。 文/レン様 *1 / *2 / *3 / *4 / *5 *レンの無人島へ冒険だ!(冒険記・外伝) *ソウの旅立ち(冒険記 番外編) *12172100 水遺跡 Remains of water を陥落せよ大作戦(冒険記 番外編) *砂の津波(異世界) *湖のほとり(異世界/砂の津波の続き) *Another story 〜 レン故郷に帰る(異世界 〜 *Another story 〜 例えばこんな結末を (異世界 〜 |
*1 ▲ 「おい、ソウ!起きろ」 「う……もうちょっと……」 真上から聞こえる声と太陽の光がうっとうしくて、毛布に顔を埋めた。 「……お前って奴は!」 寝返りをうって背中を見せ、なおも寝る体制をとるソウに、イライラが募る。 グッと毛布の端を握って、 「起 き ろ」の声と共に、ガバッと毛布を持ち上げた。 「うわ。ってぇなぁ。人が気持ち良く寝て……もう少し起こし方ってのを学んだほうがいいんじゃないか〜。リュウ。」 「はい、はい。」 「頭、うっちまったじゃねぇかよ。」 「あー。それは悪かったな。こんな場所で頭をうつのはお前くらいだ。」 謝りの言葉とは裏腹に淡々とした口調で云う。 手にしていたソウの毛布の砂を払って手早く丸めていく。 絶対に確信犯な起こし方だ……。 ソウは胡坐になり、心のうちで毒づいた。 「さ、行くぞ」 まとめた荷物の袋一つを肩にかけて、リュウは手を差し出した。 しかし、ソウは差し出された手をちらりと見ただけだった。 「……おい、俺の朝メシは?」 「はぁ!!……そんなもんがこの砂漠のど真ん中にあると思うか!?」 雲ひとつ無い、木一つ無い、見渡す限りの砂の上でリュウの大声が無常にも掻き消えた。 「持ってきた食料が、あったはず……」 ソウは自分の荷袋を開けようと手をかけた。 「昨日で底をついちまったよ」 「何でだよ!」 リュウに即答されて、ソウもむきになって云い返した。 「はぁ……」 リュウは一つため息をはく。 「お前が、予定外の行動ばっかするからだろうに!」 呆れた顔で、口早に云う。 「………」 ソウは昨日までのことを、思い返した。 この砂漠から幻の街、蜃気楼の街へ行けるらしいぞ。 そんな噂を聞いて、蛇行しながら進んでいた。 直線距離で歩けば一昼夜ほどで通り抜けられるのに、廻りまわってもう3日もこの灼熱の座架砂漠に留まっていたのだ。 持ってきたつぶつぶの実も皮の水袋の飲み水も少なくて、砂漠にあるサボテンを食べたものだ。 しかし、毒サボテンをうっかり口にしてしまい、解毒ハーブを何度も飲んだ。 リュウが飲ましてくれた解毒ハーブの苦味を思い出して、顔をしかめた。 「リュウ。予定変更だ。」 ソウは今までが嘘のように、さっさと立ち上がり、グッと手を握り力をいれ 「朝メシを求めて、出発だぁぁぁぁ」 拳を突き上げた。 「はぁ……なんであいつが俺のマスターなんだろう。」 ソウの背中を見つつ、もう一つため息を吐いた。 |
*2 ▲ 「たっ……大変だ」 「何をそんなに急いで……って、ソウ。何だ、それは!」 ソウが手に持っているのもを指して叫んだ。 砂漠を無事に通り抜け、一番近くの町に辿りついた。 そして、まずは宿を探そうということになった。 じゃあ、俺が宿探しをするから、リュウは旅に必要なものを買ってきてくれよ。 と云って別れたのだ。 それなのに、ソウは手に信じられないものを持っていた。 お前は、宿を探さず、何をしていたんだ……。 その言葉をリュウはあえて、呑み込んだ。 「リュウ、これを着て欲しいんだ。」 ソウは手にしていたフワフワな布を渡した。 「なっ……冗談だろ。」 差し出されたのを素直に受け取り、腕に抱える。 「俺は至って真面目だぞ!それにお前の方が体のラインが細いだろう。」 「そんなことじゃ、理由になってない……どうして俺がドレスを着なきゃいけないんだよ。」 「まぁ、落ち着けよ、リュウ。」 ソウは先ほどから、変わらない明るい口調で云う。 「コレが、落ち着いてられっかぁぁぁぁー」 リュウは、本日2度目となる絶叫であった。 「うん、綺麗。似合ってる。俺の見立てに狂いはなかったな。」 「そんなに見るな。俺はこのドレスを一刻も早く脱ぎたいよ。」 触り心地滑らかな碧色の布地に、手が隠れるほどの長い袖。袖の先部分には、白のレースが付いていて、裾が広がっている。 また、ロングのスカート部分は、綺麗な弧を描いて、ふんわりとしていた。 中世ヨーロッパの貴婦人ドレスのようだ。 「じゃあ、行こうか。」 ソウがリュウの分の荷物も持った。 少しの我慢……。 リュウは苦味を押し殺したような顔になりながら、横を歩く。 噂によると、この街は男女のペアじゃないと、宿には泊めてくれないらしいんだ。 お前だって、野宿は嫌だろ? 砂漠での、汗も埃もすっきり落としたいだろう。 だからおねがい、リュウくん。 そんな宿が、本当にあるんだろうかと思う反面、世界は広いので、そういう宿があるのかもしれない。 それよりも、ソウの絶え間ない笑顔の方が、気になる。 微笑みながら悪魔のようなことを云うヤツのことを、信じていいんだろうか。 釈然としないまま、ソウの云うままにしてしまったが。 いやいや、マスターであるソウの云うことを信じないでどうする……。 「では、こちらの部屋をどうぞ」 宿の受付人の声で、リュウは考えるのを中断して我に返った。 どうやら、考え事をしている間に、宿についていたらしい。 ソウが、鍵を受け取っていた。 2人は2階に上がった。 「はぁー。」 部屋に入るなり、リュウはため息をついた。 「男だとは、思われなかったんじゃないか。」 「笑うな……こっちは一生分の葛藤で……。」 「そんなことよりも、風呂入ったら、メシ食いに行こうぜ。 もちろんリュウは、そのドレスを着るのを忘れるなよ。」 リュウの言葉をさえぎり、自分の云いたいことだけ云って、 ソウは、洗面場に入っていった。 「ん。うまい。」 「ソウ、そんなにガツガツ食べるなよ。」 「いいじゃないか、それよりもリュウの方は、あまり食べてないじゃないか。」 食べるのか喋るのかのどちらかにしてくれ。 リュウは言葉を発する代わりに水を一口飲んだ。 テーブルには、フルコースが並べられていた。 2人でこんなにも食べられるのかと心配したのだが、30分経った今では、 半分近くの皿が綺麗に平らげられていた。 「この魔肉がうまいんだよ。」 と、ソウは万遍の笑みを浮かべながら、一口大の肉を口へと運ぶ。 リュウは、古代の実を一粒食べる。 楽団の穏やかな曲が流れる中、人々はそれぞれのテーブルで談笑していた。 場はとても和やかな雰囲気に包まれていた。 しかし、その静寂を蹴散らす音が、室内に響いた。 「おい、酒はあるか!」 そう云って、荒々しく扉を開けた男ども、 どうみても、悪役極まりない濁声と風貌を見るなり、 楽団は演奏するのを止め、人々は部屋の隅へと我先にと向かった。 和んだ場が一変して緊迫した状況へと変わったそんな中でも、 ソウは一人、肉を相変わらず食べていた。 どちらかというと、肉以外は目に入っていないのかもしれない。 そんな態度が荒々しい男の目障りだったのか、一番初めに入ってきた男がソウに近づいた。 「おい、俺様が誰だか知らないようだな。」 「静かにしろよ。こっちは至福のときを過ごしてるんだぜ。」 「なにっ!」 荒くれた男が、低い声で凄む。 が、ソウはお構い無く万遍の笑みで 「う ま い」と云った。 「なめられたもんだな。」 そう云うや否や、男はテーブルをひっくり返した。 皿が複数枚割れる音がする。 「ん、なっ、何しやがるんだ、てめぇ……」 ソウは立ち上がり男を睨み付けた。 やっと自分を見たソウに男は外を指差し、歩いていく。 「……売られたものは、買うまでだ。」 「おい、待てってソウ。」 リュウの言葉など耳に入っていないらしく、ソウは男を追いかけて外へ出ていく。 ソウは、食べ物が絡むと待ったなしだからな。 くそっ!こんなドレスじゃ走りづらい。 リュウは2人を追いかけた。 外に出ると、ソウは複数の男を相手に、剣を振り回していた。 2人ほど、すでに地面に倒れている。 リュウは扉の近くで倒れている男の所持していた剣を取り、乱闘の場へ入っていった。 「おい、リュウ、何やってるんだ、動きが鈍いぞ………っと。」 ソウは相手と剣を挟み対峙しながらも、リュウに向かって叫ぶ。 「お前の所為だろ!……。」 そう云うや、リュウは拾った剣でドレスを引き裂いた。 「……うわっ。勿体ねえ。」 「アホ、前を見ろ!」 リュウの言葉に、新たな男が剣を振り上げたのが見え、ソウは一歩後ろへ下がる。 男の剣が空を切り地面に叩きつけられる。 男が体制を立て直す間も与えずに、ソウは足で男の顎を蹴り上げた。 グウと短い言葉と共に男は白目をむいて倒れた。 「ん………なんで、ドレスの下に………服を着てんだよ。」 「当たり前だ。お前は何を期待してたんだ……よ……っと。」 リュウの剣が相手の手首にかすった様で男は手首から血を流し、剣を落とした。 「別に〜。ただ、ギャラリーが喜ぶんじゃないかなぁ……ってよ。」 「はぁ……」 リュウは一つため息を吐く。 目の前には、ボスが一人残るのみとなった。 ソウとリュウはじりじりと間合いを詰めていく。 「ぐ………お前ら、退散だ。」 不利と見るや、馬に乗ってかけて行った。 その姿を見て、意識のあるものは同様に去っていった。 そして、周りから拍手が沸き起こった。 悪さするヤツを捕まえて役人に引き渡せば、帝國の方から報奨金がでる。 酒場に居た男からそう聞いたソウとリュウは、伸びて意識の無い数人を縄で縛った。 「すみません、女の格好をして騙して……。」 フロントに鍵を返すときリュウはそういった。 受付の男はその意味が分からずに、 「騙すって……???」 「男女のペアでないと、宿泊できないシステムじゃないんですか?」 「当店では、そのようなことはございませんが……。」 「………。」 「……………ソウのヤツ………。」 フロントに一礼すると、駆け足で外へと向かった。 「お前、嘘をついたな、ソウ。」 「あははっ。」 リュウの激怒した顔とは反対に、涼しいくらいの笑顔である。 「宿屋のディナーくらいは、可愛らしい姿の子と一緒のほうが楽しいだろ?ちょうどリュウは成長途中で男とも女とも区別が付き難いし、自慢の魔法獣だし、ね。」 「……そんなこと云っても、絶対に許さないからな!」 「まぁ、まぁ、そう怒るなって……可愛い顔が台無しだ……ってば。」 ソウはリュウの頬にキスをして、ダッシュした。 「………」 一瞬の出来事に、リュウは固まり動けずにいたが、100メートルほど向こうで笑い転げているソウを見て、 「はぁ。」とため息を付くのだった。 |
*3 ▲ 「ご苦労様です。コレをどうぞ。」 帝都涼潤へ行く道すがら捕獲した悪事を働こうとしていた人を、一番外側を守る帝國の告門番に引渡し、代わりに一枚の紙を貰った。 それには、証明書、と大きく書かれていて下隅に印が押してあった。 古代文字を使った朱印入りのものは、皇帝が発行する正式な書面を意味した。 「ありがとうございます。」 「これをもって、皇帝にお会いするといいですよ。」 門番の若者はとても気さくで、 こいつらは武装盗賊団・月影の末端組織の末端。要は下っ端ってことですね。 こいつらを束ねているヤツの正体が謎に包まれていて、手を焼いてるんですよ。 などと話をしてくれた。 促されるまま壁の扉をくぐると、そこは人がたくさん行き交い活気に満ちていた。 さらに進んでいくと、王宮に続く大通り、宮廷広場にでた。 ある店では色とりどりの料理が芳しい匂いを漂わせ、また、ある店では個性ある武器と防具が売られていた。 「……魚の燻製が食べたいな。」 燻製の匂いにつられて、ソウはふらふらと一軒の店先に引き寄せられた。 「そんな金は無い。」 「へぇ……何で無いんだろうね。」 「自分の胸に手を当てて、聞いてみるんだな。」 リュウはさっさと先へ行ってしまう。ソウの言動など無視という感じだ。 「ひょっとして、あのドレスで散財したのを根に持ってる?」 ソウがリュウに追いついてから云う。 「……嫌な事を思い出させるな。」 「あはは。」 リュウの困った顔を見て、ソウは笑った。ソウはいつもと同じように上機嫌であった。 そんな他愛も無い話をしながら大通りを歩いていると、王宮の外壁門まで来た。 守門番は2人いた。 そのうちの1人に街の外壁にいた門番にもらった証明書を見せた。 「ご苦労様です。どうぞ」 と云って、門番が扉を開けた。また、道が続いていた。 王宮はまだまだ先にあった。 「コレって、歩かないと駄目なんだよな。」 「お前は、サボることばっかり考えるな。王宮の敷地を歩いていくのは、王道なんだぞ。」 「邪道でいい〜〜〜。リュウくん、おんぶー。」 ソウはリュウの背中に抱きついた。 「うわっ………」 ソウの腕がリュウの背中から肩、首の前で交差して、リュウは後ろ側によろめく。 「こ……の……。」 「………っぅ……。」 リュウの肘がソウの片側の腹部にヒットした。 リュウの思わぬ反撃に、ソウは手を離した。 「お前の方が、背が高いんだから、ジャレるな。」 そういうとリュウは一人、直線距離である王宮内のバラ園を進んでいった。 ソウは、リュウの背中を見つつ、クリーンヒットされた腹を押さえた。 あはは、昔は手のひらに乗るくらい小さかったのになー。 あんなにでっかくなりやがって……。 コレって、親の心境ですかね。親の心子知らずっていうのは、このことだよな??? 「おーい。……待てよ。リュウー。」 香りの良いバラ園を抜けると、大理石の廊下に出た。 磨き上げられた廊下は、ぼんやりと人影を写しこみ、足音だけが、規則的に響いた。 すると、人の列に行き着いた。 「どうぞ、面会者はこちらへお並びください。」 どうやら、皇帝に面会する順番待ちの列らしい。ソウとリュウは最後尾に並んだ。 どの位待っただろう、宝石細工で彩られた扉の前まで来た。 「どうぞ」の短い言葉と共に開かれた扉。 三度、廊下があった。 その両壁面には歴代の皇帝と思しき自画像が飾られていた。 年齢はさまざまであった。そして、その中には女性もいた。 「凄いな……」 この廊下には誰もいない。小声で言ったはずのソウの声が木霊した。 1本道の廊下を進むと扉があった。 王宮の最上階なのだろうか。ふと、そんな疑問が浮かんだ。 宮廷広場から見上げたときに、小高い場所に位置していた。 もちろん、丘の上にあるので坂道はあった。しかし、王宮内には坂など無い。 扉をくぐるたびに、ひょっとしたら少しずつ高い場所に行っていたのかもしれない。 階段はバラ園から大理石の廊下に昇るために数段あっただけである。 しかも、先に入った人物とすれ違わないのも不思議である。 ひょっとして、別の出口専門通路があるんだろうか。 「この王宮を造ったのは、曲者か、よほど遊び心があったんだろうな。リュウ」 「はぁ?……」 扉を前に、意味不明なことを発するソウにリュウは怪訝な顔をした。 そんなリュウの顔を、満足げに見ながら扉を開くと、やっと大広間らしきところへ出た。 前へ進むと側近らしき人物が朱塗りの四角い盆を両手で持ち2人の斜め前まで来て、「ここへ」と一言だけ云った。 ソウは持っていた証明書をその盆の上に乗せた。 側近は足音を立てずに、皇帝がいる上段へと昇って、恭しく朱色の盆を机の上に置いた。 幼い皇帝は、朱印を押すと、「次の依頼はどうする」と可愛らしい声で云った。 「なるべく近場で、簡単ランクのものをお願いします。」 「うむり。」 そういうと皇帝は、一枚の紙を束から抜き取り、先ほどの盆に乗せた。 側近のものがそれを持って、再びソウとリュウの元へきた。 ソウは巻いてある紙を伸ばす。それをリュウが覗き込んだ。 月彩村で、人助け−−− 2人は心の中で読んだ。一礼すると入室した際に使った扉から出た。 やはり、誰ともすれ違うことなく、バラ園まで来たのだった。 「そういえば、依頼書と一緒に、販売許可証ももらったよな。」 「え〜と、俺たちの場所はNo,94らしいぞ。」 宮廷を出て、一直線の大通り沿いには、真鋳で出来たナンバープレートが掲げられた屋台が並んでいる。 帝國から許可証を発行してもらい、振り分けられた場所で、物品を自由に販売でき、また、 討伐依頼や皇帝のお使い依頼の際には休店にもできる優れたシステムであった。 行き交う人に流されながら歩いていると、目的のNo,94のプレートのある場所まで来た。 「……というわけで、早速、荷物を見てみようぜ。」 ソウは肩から荷袋を下ろし、一畳ほどの屋台の台の上にひっくり返した。 ごろごろと鈍い音を立てて、中の物が転がり出た。 「……魔獣の骨しかないな。」 「3日も灼熱の砂漠を彷徨ってたからな。」 「骨は買い手がつかんだろう。」 「魔獣の肉はソウが喰っちまったからな。」 2人とも屋台の上にあるものを眺めながら云う。 「……………」 「……………」 「ツッコミのスキルを覚えるくらいなら、もっと有意義なスキルを覚えろよ!」 「そんなスキルは、最初からないぞ、ソウ。」 しばしの沈黙が流れた後、ソウは、キリッとリュウのほうを見ながら云った。 視線を受けたリュウの方は、 はぁ、といつものため息をつき、店の中にあるイスに背を預けた。 「……まあ、何とかなるだろう。……じゃあ、リュウは店番ね。」 そういうと、台の上に散らかした魔獣の骨をかき集めて、それを腕に抱えて持ち、人通りの中に入っていった。 ソウの言葉に、リュウが顔を上げたときには人の波に混じって、背中すら見えなかった。 店番って云っても、売るものがない時点で用を成さないし、 あいつの物言いと行動はいつも、唐突だから、すでに怒る気にもなれんな。 唯我独尊で俺様属性人間の、さらに後先考えず我が道を行くのは、あいつくらいなものだろうな。 椅子にもたれたまま、瞼を閉じてリュウは思った。 リュウ……リュウ……… 自分の名を呼ばれた気がして、目を開けると、ソウの姿があった。 ひょっとしたら、少しの間眠っていたのかもしれない。 「よっ……と。」 ソウは手に抱えていた古代の実を台の上に置いた。 「……?」 「No,8の末広がりで縁起よさげな販売所、常駐質屋っていう所は、何でも買い取ってくれるんだぜ。」 「あ、いや……なんで古代の実……。」 「骨を買い取ってくれた金銭で、途中にあった激安の店で買ってきた。手元に残ったのはコレだけだ。」 ソウは手のひらを見せる。 そこには、数枚のコインがあるだけであった。 「所持金が少ないんだから、貯蓄しようって気は無いのか、お前には!」 「え?……リュウって古代の実、好きだろ。愛だよ。」 「はぁ!?……」 何の役にも立たない骨を引き取ってくれる場所があっただけでも驚きだが、 自慢げに、数枚のコインを見せるもんじゃないぞ。 コイツの言動は理解に苦しむな。 話のかみ合わない状況に、リュウは言葉を失った。 「だから、貯蓄するのはもうちょっと後からでもいいだろ。強くなれば、依頼をたくさんこなせるようになるんだし、今は、リュウが成長してくれた方が嬉しいんだ。」 リュウはソウのほうを見た。ソウはいつものように、上機嫌で笑っている。 「ま、これが親心ってもんだぜ。」 「ははっ。」 「それ食べたら、出発だからな!」 「はい、はい。お前と居ると退屈しないな。」 リュウは苦笑いを浮かべながら、差し出された古代の実を受け取った。 「……リュウ……お前の話には脈絡が無いな。会話のスキルを早く覚えるんだぞ。」 「……」 そっくりそのままの言葉をお前に返してやりたいぜ。 リュウは黙々と実を食べたのだった。 |
*4 ▲ 今日、一通の依頼が来た。 いや、依頼ではなく私信であった。 皇帝の分厚くしっかりとした紙の依頼書ではなく、手紙屋が届けた封書だった。 その手紙には裏を見ても表を見ても宛名がなかった。差出人不明なのである。 自分宛なのかもわからないその手紙。 しかし、ここ月読帝國の手紙屋は配達を間違わないことで有名である。 仕方なく開け、ソウは中を見た。 − 100人斬りに挑戦していた時に、吸血鬼になっちゃった。瑞穂さんまで聖水買いに行って、その足で届けてね♪ 愛しの姉レンよりv − 「……悪い夢だ。」 ソウは、手紙を見なかったことに、今すぐ火をつけて証拠隠滅を図りたい衝動に駆られた。 「お。なんて書いてあったんだ。」 リュウが脇から覗き見る。 「何だ、レンのおつかいか?瑞穂さんのところに聖水を買いに行って届ける。簡単じゃないか。ちょうど、暇だしな。」 メモをソウから奪って読むと、無言で固まっているソウに声をかける。 2人はちょうど王宮広場で物を売っているところだった。 しかし、数分前に綺麗に物は売れて、暇になったばかりだった。 袋は空になり、身軽になったし、店を休店にしておいても問題はない。 「リュウよ。問題なのは買いに行くことじゃないんだ。レンに届けることなんだ。アイツに会うのは、ドラゴンの巣穴に入るようなものなんだ。」 「何を、大げさな…。」 「リュウは会ったことが無いから、そういえるんだ。あいつには、近づかないほうが身のためだぞ。」 いつになく緊張した顔をするソウ。 「お前には、ああなって欲しくないんだー!」 ソウはリュウの肩に手を置いて、叫んだ。 「はぁ?…しかし、おつかいを頼まれたんだし、するしかないだろ。」 「そうなんだよ。アイツの命令は絶対だからな。……あぁ、脱兎したい。」 ソウはガクリと肩を落とした。 どんな場面においても、こんなにも意気消沈したソウを見たことはない。 リュウは声を掛けづらかった。 そういいつつも、プレートNo,10の瑞穂さんの所で聖水を購入し、宮廷広場の質屋で待ち合わせとなった。 「いつもありがとうございます。」 瑞穂さんの鈴とした声を背に、待ち合わせ場所へと向かった。 待ち合わせ場所は、いつもお世話になっている、No,8の場所の質屋さんの前。縁起がよさそうな人が座っているのだ。何でも買い取ってくれる、心の広い人である。 「遅い!」 最初のレン姉上の言葉である。 「もー。待ちくたびれましたわよぉ。」 聖女のひびきさんが、可愛らしい声でいう。 「時間に遅れないで、って云ったのに。」 そう云ったのは、女戦士のみなとさん。 ソウの姿を見るなり、3人が3様声を掛ける。 「お。ちゃんと買ってきたわね。」 ソウの持っている聖水をもらいうけながら、レンが云う。 ソウは、お役目がすんだとホッとした。 そのとき、 「ねえ、レン。丹も欲しいわぁ。」 「そうね。疲れたときには丹がいいわね。持ち運びやすいし。」 「それも、そうね。じゃあ、丹もちょうだい。持ってるよね。」 「ね、いいでしょ?」 「魔法も覚えたいしね。」 3人の女たちはソウとリュウの目の前で、話を繰り広げている。話はどんどんと当事者を抜きに広がっていった。 ソウはその様子をただ黙ってみているだけである。 何時ものソウじゃない。 …???? リュウはその様子をじっと見ていた。ソウにしてはおとなし過ぎるのである。 「じゃ。お願いね。ソウ」 どうやら女3人の話は纏まったらしい。 にこりとした笑顔で、3人がソウを見る。 「はいはい。」 ソウは袋の中から数粒の丹を取り出した。 『ありがとうv』 3人はそういって、去っていった。 「はぁ。嵐が去った…」 3人の後ろ姿が見えなくなるとソウは安堵のため息を付いた。 「リュウよ。」 「うん???」 ソウはじっとリュウを見つめる。 「彼女たちはあんなに見た目が可愛いのに、物凄く強いんだ。使い手のレンが未熟だから、彼女たちを使いこなせていないだけで…」 「あ…ん?」 リュウはソウの云いたいことが呑み込めずにいた。 「レンの魔法獣は突撃だとか致死撃だとか、見切りだとか、その他もろもろの芸術には関係の無いスキルだらけなんだ。」 ここで一旦、ソウは息をついだ。 「ああいう女性の魔法獣にだけはなるんじゃないぞ!俺の理想は、大和撫子なんだ。戦闘スキルは覚えなくてもいいからな。」 ソウはニコニコしながら、リュウに云った。 「……俺は強い男になりたいんだぁぁぁぁ!」 今日も、リュウの怒声が広場に響いたんだとか。 (寒) |
*5 ▲ (※「レンの無人島へ冒険だ!」の後日談) 近所の男の子たちが、木登りをしていた。 自分も登りたいといい、俺も一緒に木登りの練習に付き合わされた。 女の子は、木に登れなくたって、いいじゃん。 そう云うと、 私が、登りたいんだ。私は木の上からの景色を見てみたいんだ。 そういって、レン姉は泣いた。 木登りの特訓は1ヶ月続いた。 レン姉は、木の上からの景色にとても感激していたっけ。 あれは、いつの頃だったろう。確か10歳くらいだったと思うけど……。 ふわーと、ソウが欠伸をした。 「そもそも、レンが無人島へ行こうと思い立ったのって、どうしてなんだ。」 ソウが欠伸を噛み締めている時に、リュウが、何気なく話題に出した。 のんびりとした昼下がりであった。 それは、レンが無人島へ旅立って7日目のことだった。 カヌー作成では、あちらへこちらへと駆け回った2人であったが、今はのんびりと福引屋で当てたつぶつぶの実や魚の燻製を売って、商売をしていた。 店で、のんびりと物を売っているときに、リュウがソウに聞いてきたのだ。 「悔し涙を、レンが流したからだよ。」 「レン……が、涙?……想像がつかんな。」 「あはは……いつだったかな。」 リュウの言葉に、ソウは苦笑いを浮かべながら、話を進めた。 ソウ!……私は未熟な使い手だな。 この月読帝國に来たとき、私は一人ぼっちだった。 そんな時、この国には魔法生物がいるという噂を聞いて、見よう見まねで、古代の卵から誕生させたんだ。私の元に来てくれたあの子達は、私の友達だ。 彼女たちは、一緒に戦ってくれるし、探し物も一緒にしてくれる。 本当に、絶えず一緒に居て苦楽を共にしてきたんだ。 私の未熟さゆえに、彼女たちが外部の魔法生物との戦いで、負傷するのを見ているのが嫌なんだ。 戦いが終わって駆け寄ると、こんなことは何でもない。という彼女たちの顔を見るたびに、傷ついた体を見るたびに、自分の不甲斐無さを思い知るのだよ。 こちらの魔法獣というのは、不思議だな。 卵から暖めて育てるのだから、姉妹のような親近感を覚えるのだ。 ソウも、彼らを育ててみると判るぞ。 まだ、リュウと出会う前のことなんだけどね。 ソウは苦笑いする。 「そういって、レンはね、ぽろぽろ大粒の涙を流すんだ。」 「…………」 リュウは無言で話を促す。 そうそう、先月の初めに月読帝國内で天下一武道大会があっただろ。 そのときに、魔法獣を育てるのなら、無人島へ行くといい。 と、出場者の誰かから、聞いたらしいんだ。 「……で、無人島へ行く気になったと。」 「早い話が、今の自分に出来ることをしようと。レンは思ったんだろうね。」 「はぁ……」 リュウがため息をつく。 「思い立ったら即行動が、レンだからね。」 ソウが嬉しそうに笑った。 「レン。お土産とか持ち帰ってこないかな〜。」 「レン姉に、期待をしないほうがいいぞ。リュウ。」 そういって顔を見合わせて、2人はブースの中で、大笑いをした。 「あら、随分な云い様。」 「ですわね。」 「お土産はいらないのね。」 3女性の声に、ソウとリュウはギクリとして、声のほうにゆっくりと顔を向けた。 「いつの間に、お帰りデスカ。」 ソウは、固まった声で聞く。冷や汗が流れる。 「無人島から帰って真っ先に寄ってみれば随分な云われよう。」 「本当ですわ。か弱い手でお土産を持って来ましたのに。」 「噂話をしてると、本人が来るっていうのは本当ね。証明できて良かった。」 「どこら辺から、聞いて……たんデスカ。」 「リュウの……無人島へ行く気にー。のところかしら。」 レンは、ニヤリと不敵に笑う。 「まぁ、今云ったことは不問にしてあげる。」 「これ、お土産ですわ。」 「大事に使いなさいよ。」 レンがヒビキとミナトに目で合図を送ると、2人の魔法獣はソウの腕に取り出したものを手渡した。 それは、杖であった。しかも、3本もある。微妙に色や形が違う。 「どれが、使いやすいか判らなかったのよ。」 「それに、瓢箪を3つ頂きましたし。」 「料理人目指してるんでしょ。頑張りなさい。」 それは、魚の杖と卵の杖と虫の杖ね。レンがそれぞれの杖について簡単に説明した。 名前の通り、それぞれの杖で魚・卵・虫の料理が出来る杖で、便利なんだけど、 どんな種類の物か判らないと料理できないの。 魚は自分で釣るから種類がわかるでしょ? でも、虫は、遺跡虫なのか害虫なのか川虫なのかわからないと料理出来ないのよ。 参考までに伝えとくけど、こう兄ぃは、焼き魚の杖がいいって、 そう云ってたわね。 「じゃ。また。」 「またですわ。」 「頑張りなさいよ!商売」 3人は、口々に云って、去っていった。 3人で喋りながら広場を歩いていく。 ソウとリュウは無言で見送った。 「………一ついいか。」 「いいぜ。」 「お前はいつから、料理人を目指してたんだ。ソウ。」 「……今日からじゃないか。」 「そうか………」 会話は一旦そこで止まった。 ソウは、押し付けられるようにもらった3本の杖を、ブースの奥へと置いておいた。 「あの3人の会話に割って入る自信も、ツッコミを入れる自信もないぜ。」 椅子に座ってから、ソウが云う。 「確かに、俺もないな。」 リュウもソウの所作を見て椅子に座る。 レンが帰ってきたことに、嬉しさを覚えつつも、どこか、複雑な2人であった。 「月読帝國の夕日って綺麗だよね。」 「そうだな。いつまで、ゆっくりと夕日が見えるんだろうな。」 「今のうちに、したいことはしておけよ。デートとかな。」 「なっ………んで………」 リュウは口をパクパクとさせる。言葉が出ないようだ。 ソウはそんなリュウの姿をみて、満足な笑みを浮かべる。 「……照れるなよ。」 「コレは、夕日のせいで赤く見えるんだー。」 ソウは、咄嗟に手で耳を塞ぐ。 リュウの叫びは、周りの家の迷惑になるほど声が大きかった。 ただし、隣人はいつものことだと、気にしなかったとか。 |
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