湖のほとり(異世界編)
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レン様の作品集の一つです。 →本編はこちら 砂の津波からの続きです。 文/レン様 *1 ワイバーンの旅 / *2 湖のほとり、滝のせせらぎ / *3 湖のほとり、滝のせせらぎ(リュウ) / *4 湖のほとり、滝のせせらぎ(ソウ) / *5 ライア / *6 ライア’ / *7 謎 / *8 永遠に |
*1 ワイバーンの旅 ▲ SOSの手紙を読んだ帝國空軍が、向うの町へ来たのは、手紙を書いてから、ぴったり3日目だった。 そして、今、帝國の空を飛竜に乗って移動しているのである。 ことの起こりは3日前、月読帝國本土の灼熱の砂漠を歩いていたところ、 不思議な力によって砂漠の砂と一緒に、サンドグラスという異世界に迷い込んでしまった。 月読帝國には所々、精霊の作用が強く出て、その場所の力関係を捻じ曲げてしまうスポットがあるらしい。 精霊の力がほどほどであれば、冒険者に与える影響もさほどないのであるが、強力な力というのは、時として、思いもかけない事をもたらすのかもしれない。 そして、サンドグラス内で、天球の宮である、ステラの一人と出会う。 サンドグラスに閉じ込められていたステラ達を解放し、着いた場所が、月読帝國皇帝の影響力のある、向うの町であったのだ。 幸いなことに食料はたくさん持っていたので、手紙を書いて、誰かが迎えに来てくれるのを待つことにしたのだ。 帝國の世界では、手紙は手紙屋が運んでくれる。 本土以外の場所には、転送装置が本土に面している海岸線沿いに設置されていて、 品物や手紙を篭に乗せると、転送の最中に仕分けして適切な場所へと送ってくれるという優れた機能を持った魔法の篭である。 離れた無人島から本土の場所や人へ品物や手紙を送ることが出来るのも、このためだ。 そして、向うの町というのは、地図上でいうと、本土の左上側にある、孤島の町である。 孤島とはいえ、帝國の影響力はあるので、魔法の篭があったのだ。 転送されるときに、それは手紙屋へと届けられ、そして、帝國の空軍へと届いたようだ。 迎えに来てくれたのは、飛竜という大きな竜であった。 ワイバーン召喚札を使うと、飛竜を召喚できる空軍秘蔵の品だ。 このような、経緯を辿り、俺と相棒のリュウは、翠竜の背に乗って、帝國の空を飛んでいるのである。 翠竜の前には、空軍関係者の乗った緋竜。 上を見れば、何処までも広がる空と雲。 下を見れば、一面が青色の海である。所所に岩礁があり浅瀬になっていた。 風が穏やかで、空も海も静かであった。照らす太陽は眠気を誘う。 日常の帝國の警備や遭難者の発見などは、海軍がしているらしいのだが、生憎、海軍は向うの町とは反対側の方へと進行していた。 海は海流や岩礁などがある。海ルートだと、蛇行も多い。 向うの町には、港も整備されているが、大回りをして海軍が行くよりも、空軍が動いたほうが早いと判断したのだろう。 「ここで一旦、飛竜の休憩を取る。」 緋竜に乗っている空軍関係者が、下を指さしながら大声で話す。 それを見て、コクリと頷いた後、俺とリュウは下を見た。 前方海面に島が見えてきた。 全体の様子は窺えなかったが、パッと見たところ島全体に森があり、浅瀬はコバルトブルー色の海と砂浜の白さが綺麗だ。 どうやら、ほんの僅かにある砂浜に着陸するようだ。 飛竜は、両翼の羽ばたきを止めて、海からの気流を上手く利用して徐々に高度を下げていく。 気流にのって、それにそって緩やかに回旋をして、目的の白い砂浜へと降りる。 ズシリト体躯が砂にうずまり、足に続いて竜は体を砂地につけて、降りやすいようにしてくれた。 翼がバサリト大きな音を立て折りたたまれる。 俺とリュウは、えいっと、竜の背中から飛び降りた。浜の砂は海から離れていたため濡れていなかったので、更々としていた。 空軍関係者が近寄ってくる。 ワイバーン召喚札は、3度飛竜を呼び出すことが出来る。 腰元にあるポーチから札を取り出し、竜に向かって札をかざし、何か呪文を唱える。 すると、何も書かれていなかった札に、先ほどまで乗っていた竜の絵柄が浮かび上がった。 それと同時に、目の前に居た竜が消えた。 疲れた竜を休ませるために、召喚札に竜を再度取り込んだのだ。 その竜の絵柄の下には、帝國紋章の図柄があり、紋章の数だけ呼び出せるという仕組みになっているのだ。 竜は自分の世界へと戻り生気を養い、再度召喚されるのを待つのである。 ワイバーン召喚札に書かれている紋章は、竜を召喚するたびに、一個消えて、紋章が全部無くなった時、契約を結んだ竜は役目を終えるのである。 無となった召喚札は、新たに契約を結んだ竜が宿る仕組みとなっている。 この世界は、精霊との契約が大事であり、竜と契約を結ぶことは、帝國内でも空軍の中のごく一部の人しか行えないのである。 なので、通常の人が使うと、3回で竜との契約を終え、札は役に立たなくなるのである。 ワイバーン召喚札が帝國内に出回ることは稀である。 それは、精霊の法術や変化の宝玉と同じくらい見かけることは無い。 月猫団調べのデータベースでは、もらいもの・おもしろアイテムの項に載っている。 参考にされるといいだろう。 そして、この島は、向うの町のある島と本土の間に位置する場所である。 女神の泉がある場所で有名だ。 空軍や海軍などが、補給目的で立ち寄ることがあるくらいで、滅多に森の中に人が入ることが無いため、自然がそのままに残っている。 空軍関係者の話によると、ここでまる1日の休息をとり、再度ワイバーンで飛竜を召喚して、帝都まで飛ぶらしい。 それまでは、この島で好きに過ごしてもいいといわれた。 「……とてもなく、嬉しそうな顔をしているな。」 「おや? そんな風に見えるかい。」 「ソウよ。お前に鏡を見せてやりたいよ。」 そう云った後、リュウは一つため息をつく。 そのリュウの顔見て、ソウは笑った。 「次の飛竜の召喚には1日はかかるんだから、島を探検しようじゃないか。」 ソウは鼻歌でも歌うように、上機嫌で云う。 その顔を横目で見て、何も云う気が起こらず、リュウはマスターであるソウの横を歩く。 向うの町に居たときも、空軍が来るまでの3日間、町の付近から森の入口付近、少し遠くにあった炭鉱跡などを見て回った。存分に島を歩き尽くしたのだ。 この島は1日の滞在である。そう遠くへは行かないだろう。 そうリュウは考えたのである。 「森の中心にある、滝へ行ってみようか。」 「ちょ…そこだけは、近寄ったら駄目だと、空軍の人に云われただろう。」 リュウが言葉を聞いて、慌てて語尾を強める。 「うーん。でも、近寄るなと云われると行って見たくなるのが人情だと。」 「それは、人情とは云わない。好奇心というのだぞ、しかも、無謀とも云うな。」 「求知心と云って欲しいなぁ。」 リュウはキッとした目線をソウに向けるが、ソウはそれをひしひしと身に受けても、チラリとリュウの顔を見ただけで、御気楽な笑顔が変わることがなかった。 アイツのこの無謀さは一体何なのだ。 根拠の無い自信にも似た、この笑顔とこの態度。 何も考えていないようで、何か壮大なことを考えていそうな自尊自重。 ソウの故郷セイリン国の人々は、こんななのだろうか。 レンのあの猪突猛進さというのも、俺から見ると、無謀な振る舞いに思えるのだが、レンに付き合うソウも、案外、似た者同士なのかもしれない。 「何、ぶつぶつ言ってるんだよ。」 不意にかけられた言葉に、リュウは我に返る。 「大丈夫だって、何があってもリュウのことは、守ってあげるから。」 「……っ! ……ハァ。」 グッと言葉を飲み込み、リュウはため息をはいた。 そういう台詞は女性に云うものだぞ。 判っていてワザと云っているのか、それとも本当にそう思っていて出る言葉なのか、リュウは頭を悩ませた。 ソウはどんどん島の中央部へと歩を進める。 その様子を見て、リュウは慌ててもう一度声をかけた。 「森の中央部へは、行っては駄目だと説明を受けただろう。」 「聞いていたよ。」 ソウはそれがどうしたのだ。という感じにあっけらかんとして云った。 リュウは、先ほどからのソウの態度に、訳のわからないイライラを募らせていた。 |
*2 湖のほとり、滝のせせらぎ ▲ ―…… 「この島の中央部には、滝があり、湖があります。 そこには、伝説の禽が居ますので、近寄らないようにお願いします。」 「伝説の禽ですか?」 「あくまでも伝説上の言い伝えにすぎないのだが、この島を塒にしている動作が素早く優雅な姿の鳥、「鳳寿」という大きな鳥が居るらしいのですよ。」 「鳳寿……?」 「とても縁起がよく、変わらぬ姿で居ることから不死不老の鳥とも呼ばれている。 ただし、その鳥が何処に住んでいるのか、誰も知らないし、見たことが無いから、伝説なんだけどね。帝國には、この幻の鳥の噂が絶えずあるから、人の手が加わっていないこの島が根城なんじゃないかという昔からの言い伝えさ。」 ……― 「近寄らないように。と云われただろう。」 「それは、あくまでも言い伝えの伝承が元になって、場所に踏み込まないように。という風に言葉が転化しただけだろう。実際にその禽がどうこうという話じゃない。」 「それでも、帝國生まれの俺にしてみれば、近寄ってはいけない場所には、踏み込みたくはない。」 リュウは、森の中を歩く足を止めて、今までに無いくらいキッパリトした口調で言い切った。 ソウは、言葉を受けて、足を止め、リュウの顔を見る。 「ふぅ……。」 ソウが珍しく、ため息をはいて、リュウから顔を背けた。 リュウの方は、それでも、ソウに、力強い視線を向ける。 「それでも、俺は、確かめたいことがあるんだ。お前になんと云われようとも、目で見て確かめたいのだ。それは、譲れない。」 「確かめたいこととは、何だ?」 「……まだ、教えられない。それでも、お前の行きたくない気持ちも尊重したい。ついて来るな。」 ソウは進んでいた方向を向いたまま云った。 「な…んで、そんな言葉を…。」 たじろいだのは、リュウのほうであった。いつになく荒々しい声色が、ソウに向かって吐き出させる。 先ほどからのソウの態度といい、今の自分への言葉とが交じり合って、陰の気分になった。 リュウはそれ以上何も云えなくなってしまった。 「…お前は、先ほどの砂浜へ帰れ。空軍と一緒に居ろ。」 そういうと、リュウの方をチラリと見た後、ソウは森の中央部へと足を進めた。 リュウは、その場に立ち尽くすしかなかった。 |
*3 湖のほとり、滝のせせらぎ(リュウ) ▲ どのくらい、其処に居たのだろう。 後ろを振り返らずに進んでいったソウの姿はもう見えない。 木が無数に見える、景色が広がるだけであった。 この月読帝國にはたくさんの精霊と魔法生物が居る。 魔法生物は古代の卵から人工的に孵化され、名を与えられ、冒険者との間に契りを結んだ暁に、その力を付与する。 又は、特定のマスターを定めずに、悪さをする魔法獣も居るが、気が合い合意すれば考えを改め、冒険者と行動を共にするものも居る。 孵化した後、契約を結べずに、転売局預かりになる魔法生物が居ることを考えれば、限りある冒険者に対して、魔法獣の数は多いのである。 一度、冒険者との間に、絆が出来れば、それは、俺たち魔法生物にとっては、至福であり、光栄でもあるのだ。 魔法獣は、冒険者の為になること一緒に行動することに、喜びが生まれるし、そういうパートナーに位置しているのだ。 ついて来るな。 その言葉を、信頼あるマスターから云われるのは、とても辛いことである。 「……っ!」 リュウは傍にある木に拳を叩く。 ドン。と鈍い音がして、細い幹の木は葉を揺らす。 「人の気も知らないで…。」 木を叩いた拳が木の皮で擦れたせいで、細かい傷を作り、全体的に赤みを帯びる。 時間と共にジンジンと痛みが湧いてきた。 リュウはその手の甲をジッと見たが、心配してくれる人は居ない。 いつもなら、戦闘でちょっとした傷がつこうものなら、すぐに魔法生物の生命の元の古代の実を与えてくれるのに。 古代の実とは、魔法獣にとっては、傷の修復や力の回復を手助けする食べ物なのである。 魔法獣は、この古代の実、魔法の果実、キャルの実を好んで食べる。 他のものも食べることができるのであるが、精霊のエネルギーをもっとも効率よく自分のエネルギーに変えてくれるのが、この実類である。 冒険者と行動を共にする魔法生物は、冒険者が容易に入手できるということもあり、よく食べるのである。 ― 駄目じゃないか、リュウ。可愛い顔が台無しだぞ。 ― ― 別にこの程度の傷、かすり傷じゃないか。 ― ― かすり傷でも、良くないぞ! 嫁入り前だし ― ― だーかーらー。俺は男になりたいんだって! ― いつだったかのやり取りが、思い出される。 「どうでもいい時は、フザケてばかり、いるのに…肝心なことは、いつだって話してくれない。」 そういえば、空軍と話しているときも、最初はいつもどおり、軽い態度で話を聞いていた。 でも、伝説の禽の話になると、普段からは想像も出来ないくらいに、真剣に話に聞き入っていたな。 で、森へ行き、確かめたいことがある。……と。 「何処か…何か、ソウの様子が何時もと違ったことは確かだ。」 リュウは我に返る。 こんな、落ち込んでいる場合じゃない。 ソウは何かを確かめに森へと中央部にある滝へと向かったのだ。 「俺に出来ることって、なんだろう。」 俺にはソウの考えが判らない。でも、伝説の禽のことなら伝え聞いたことがある。 空軍にもう少し詳しく伝説の禽について聞いてみよう。 サンドグラスの時もそうだったけど、もう二度と、「来るな。」なんてこと云わせないからな。サンドグラス内での出来事が浮かぶ。 あの時も、好奇心に突き動かされ、躊躇することが無いヤツなのだ。 しかも、自分の好奇心に付き合うなと、云う。 唯我独尊なのもいいが、アイツの優しさは残酷だ。 アイツの前に出たいとは思わない、けど、背中ばかり見ているのは、安全な場所から背中しか見せてくれないアイツの横に並びたいと……せめて背中くらい守らせて欲しい。 「…っていうか、俺はソウの魔法獣だ!」 ソウが背を預けても大丈夫だと思うくらい、俺は強くなってやるからな! 今の俺に出来ることを、やってやる。 そんなことを思いながら砂浜へと駆け出した。 |
*4 湖のほとり、滝のせせらぎ(ソウ) ▲ 立ち尽くしているリュウを背に置き去りにして、進む。 後ろから追いかけてくる気配はない。 取り立ててそれが、悲しいわけでも、腹立たしいわけでもない。 むしろ、ホッとした。 近寄ってはいけない場所。というのには、少なからず、伝説だろうと言い伝えだろうと、人はそこに畏怖の念を感じるものだ。 それをどうこうできるものではない。 さりとて、自分の気づいてしまった疑念をこのままにすることも出来なかった。 お守りの中身は見てはいけない。と云われたけど、開けて見てみたい気分にさせられるのと似ているのかも知れない。 不可侵の領域が自分の手元にあり、それを開けることも出来るのだと思えば、神様の宿る根城だとしても、ちょっと拝見してみたくなるものである。 俺もレン姉も、好奇心だけは旺盛で、よく、やってはいけない。ということをして、オジジを困らせたっけ。 そんな、子どもの頃を思い出して、口端が緩む。 しかし、今回は、怖いもの見たさというわけではないのだ。 「鳳寿……。」 俺の故郷セイリン、そして俺の先祖にあたる人々は、文献を残すことを好んだ。 それは、玉の精霊の血を受け継いだリュウという人物の文献から端を発するかも知れない。 放蕩だった劉は芸術作品もそうであるか、多くの文献を残したことでも有名である。 その文献の一つに、「劉緋の涙」というものがある。 それによると、地面から滑り落ちたときにどうやら異世界に飛んでしまったらしいのだ。 そして、森をあるき回り、滝までくると、透明な玉を見つける。 その玉に細工をしているときにであったのが、鳳寿という名の禽であった。というものである。 しかし、次に目を覚ましたときには、既に別の場所の民家であった。 そして、劉の文献に憧れて旅にでたご先祖様がもう一人居た。 その人が記した文献には、「向うの町」「色鮮やかな鳥」「ステラツィオ」という言葉が載っていた。「向うの町」へとたどり着き、綺麗な色の羽根で覆われた禽が生息していたらしい。足が発達して逞しく、体長も人を乗せて走ることが出来るくらいに大きいらしい。これが鳳寿なのかどうかは不明だと書かれていた。そしてステラという宝珠があるらしい。しかし、ステラは12種あり、透明な玉ではなかった。とある。 向うの町の冒険者たちが本土へ移動する中、この先祖の女性は、故郷セイリンに戻って、結婚した。セイリンでは16歳で成人となり、領主は結婚が義務付けられているのである。 後は、セイリン領を当時の父親から引継ぎ、文献をしたため、ここ月読帝國へ来ることは無かったのである。 と、いっても、会ったことも無い何代か前の人のことである。文献と喧伝でしかうかがい知ることは出来ない。 そして、月読帝國で、リュウという玉の細工人が居た。という古い文献を偶然見つけたのである。それによると、月読帝國各地を転々と放浪して、芸術作品を残したらしいのだが、若いときの作品そして晩年の作品が見当たらず、30歳前後のみ、ここ月読帝國で作品を残しているらしいのだ。 点と点が線となり繋がり、俺とレン姉に辿り付くであろう、この先祖の話を確かめずにはいられない。 そして、ここの島に伝わる伝説の禽、そして月読帝國と故郷セイリンに伝わる文献の見事なまでの一致。 故郷の精霊ハガルから血筋の話が出たことやレン姉がどうして数ある異世界からこの月読帝國を選んだのか。偶然だったのか、それとも何かに導かれたのか。 「ま、俺のわがままにリュウをつき合わせることもないな。」 頭の中の憶測の域を出ないことに、リュウを付き合わせるわけにもいかない。 そう考えたのであった。 森の木が途切れ、明るくなると、其処には優美な静々と水をたたえる滝のある場所へと出た。 |
*5 ライア ▲ 木々の開けた場所の向うには、怒涛の滝ではなく、静かな森の雰囲気にあった優美な滝であった。 「…確かに女神が住んでいそうだな。この滝は。」 文献でも、荒々しく無い、女性のような滝である。 という風に書かれていたのを思い出した。近づいて川に顔を近づけると、鏡のように水面に自分の顔と空の雲が映る。 透明な玉が水の中にないかと、目を凝らすがそれらしきものは見当たらなかった。 大体、この小川自体がとても澄んでおり、透明の玉であるならば、本当に水底にあっても、そうそう見つけられるものではないだろう。 「さて…と。」 ソウは地面に腰を下ろし、荷物を開いた。取り出したのは、丹の種であった。 むむ。コレしかないか。種は携帯するには一番軽くてかさばらないし、しかも高カロリーだからな。 「とりあえず体力を回復しておこう。」 種を一つつまんで、呟く。 「こんにちは」 まさに、丹を食べようとして口を開いたソウに声を掛ける者が居た。 「あ……。」 開いた口に放り投げた丹を一回噛み砕いてから、その声に反応してソウは上を向く。 「こんにちは」 今度はソウの横に座って、同じ目線になって云う。 「こん…にちは」 ソウは、丹を素早く何度も噛み砕き、口が空になってから、前に向き直って云う。 すっげー美人。リュウも将来はこれ位美人になったらいいのにな。 ソウは目の前に突如として現れた女性を見ながらそう思った。 女性はふわりとした清楚な白い服をきていた。昔のギリシャ神話に登場するような女神に似ている。 髪も穏やかな風になびいて、微笑みをたたえた口元が美しさを存分に引き出していた。 「ねぇ、あなたの名前は。」 「俺か? ……俺はソウ。」 「私は――――」 そういうと立ち上がり、水面のほうに歩いていく。 そこは、滝つぼからは離れてはいたが、激しく水が下流へと流れているのだ。 「私は、ライアよ。大河の精霊よ。」 彼女はそのまま水面に足をつけると、くるりとソウの方に体の向きを変えた。 それを見て、ソウは立ち上がる。 「浮いている?」 ソウが見たものは、ライアが地と水の区別無く、自然に歩いている姿だった。 ライアは、ソウの信じられないという表情を見て取って、クスクスと小さく笑った。 「ソウも、こちらへ。」 水面に立ったままのライアが腕を伸ばし、ソウの手を取り引き寄せた。 「え、ちょ……と。俺…ぇ?」 目の前の現象と自分の身に起きた出来事に、あたふたとしている間に、ぐいと引っ張られる形で、ソウは足を前に踏み出す。そこは地と水の境界線であった。 俺も、浮いてやがる。 ソウは足元を見た。 確かに自分の靴は、水面にあるのだ。 しかも、そこは、地面と同じような感覚、地に足がついているのと変わらないのである。 ライアの方を見ると、彼女は先ほどと変わらない微笑みをたたえていた。 彼女は手を引き、水面の中央まで、ソウの手を持ったまま移動した。 「あなた、とても似ているわ。」 「誰に。」 「好きになった、人間に……私、人になりたいのよ。」 「ん……?」 ライアは少しはにかんだ笑顔をソウに向けながら、岸の方へと音も無く先ほどと同じように進む。 ソウの方も、黙ったままそれ以上ライアに話の続きを促さなかった。 岸が近づいたので、足を前に出し地に足をリズム良く置く。 浮遊感などの違和感も無く、地に足が着くと、ライアのほうに体を向ける。 彼女は相変わらず、水面に重さも感じさせずに立っている。 「誰かが教えてくれたの……人になる方法を。」 「それは、一体……。」 「生命を百個、体内に取り入れればいいらしいの。」 「生命?」 「この辺りの動くものは全部取り入れたわ。そして、あと1つ取り入れればいいの。 でも、あなたは大丈夫よ。愛した人に、似てるんだもの。」 ライアは、遠くを見るような瞳で、じっとソウを見る。 それは、望郷の思いのような、過去しか見ていないような、そんな瞳であった。 綺麗な瞳の中に、自分の顔が映る。 「それは………。」 「まって…誰かが来たわ。」 ソウが何かを尋ねようと口を開いたとき、森の方からこちらへと誰かが来る足音が聞こえた。と、ライアは云った。 それは、ソウには聞こえなかったが、森の方に顔を向けると、次第に人影が見える。 「彼を最後の人にしましょう。そして、私は人へと生まれ変わる。」 「……来るなと、云っただろう!」 木の向うから見えた背格好でリュウだと判ったソウは、あらん限りの声を張り上げる。 ソウはリュウの方へと走ろうと体勢をとろうとしたが、ライアにしっかりと腕を捕まれていた。 振りほどこうと上に腕を上げるのだが、その力は人のものではなく、見た目のか弱い女性のものでは、無かった。 「くっ……。」 もう、姿がはっきりとお互いに見て取れた。 互いに目が合う。 リュウもソウのただならぬ事になっているのを見て取ることができた。 「ソウを、離せ!」 リュウが走り寄る。 「駄目だ! ……来るなといっただろう。」 ソウは悲鳴に近い声を上げた。 |
*6 ライア’ ▲ 向うの町を出て、数時間の飛行の後、昼頃に到着したこの島。 森が鬱蒼としていても、昼間の明るさで道に迷うことも無い。砂浜に近い場所だったこともあり、難なく、空軍関係者の居る場所まで戻ることが出来た。 「もう一人の子はどうしたんだい。」 「えぇ。もう少し散歩してから、帰ってくるそうです。」 俺の姿を見て、あちらから声をかけてくれた。 あいまいに、でも、それらしく返答できた。と内心では、冷や冷やとしていた。 が、空軍の男は、ふぅん。と生返事をしただけであった。 「もう少し、伝説の禽と何故中央部に近づいちゃいけないのか、聞きたいのですが。」 「あぁ〜。あれね。」 そういうと、空軍の男は話し始めてくれた。 ― 実のところ、鳳寿の伝説はかなり古い文献にも出てくるお話なんだ。 巷に流れる伝説くらいは聞いたことがあるだろう。 ― 男の言葉を受けて、コクリと頷く。それを見て、男は先へと話を続けた。 ― その禽の生息地じゃないか。と、云われていたのは遥か昔のことで、 今では、ちょっと、厄介な島なんだ。 ― ― 厄介な島? ― ― 実は近年、この島には動物や虫が一匹も居なくなってしまったんだ。そして、帝國軍内で、奥地へ進んで帰ってこない人が続出して、それで、民間人を近づけさせないために、利用した。というのが正解かもしれない。 ― ― 人が行方不明になった……と。 ― ― そうなんだ、だから、ここを訪れた人が行方不明になったら困るから、伝説を利用して冒険者たちが奥地へ行くのを止めさせているんだ。 ― ― でも、どうしてそんな島になったんでしょうね。 ― ― 徐々にパワーポイントが狂って、精霊の支配が強い場所になったんだろうな。ここには大河の精霊も居ただろうから、その精霊に何か異変があったのかも知れないな。だから奥地へは行かないように。絶対にね。― ― あ…ありがとうございます。 えっと、相棒がうっかり、行かないように見てきます。― 冷静な声と顔を装って、砂浜をゆっくりと歩く。 そして、森の入口から、砂浜に居る彼らの姿が見えなくなるくらいの場所にくると、駆けた。 伝説の禽の生息地だということは知っていた。 でも、ただの伝説であそこまで、奥地に入ることを禁ずることに、違和感が否めなかったのも確かだ。 昔から、向うの町のある島から本土の帝都間までの距離を考えると、ここは、一休みが出来る島として、重宝されていた。 しかし、禽の伝説があったこと、そして、島としてはあまりにも小さいので、人の手が入らずに自然が残った場所である。 ここは大河の精霊の支配地域でもあったのか。 ソウは、伝説の鳳寿の話に興味を持って、出かけていった。ここを支配している大河の精霊に異変があることまでは、知らないはずだ。 ソウに知らせないと。 そして、まだ、奥地へと着いていないといいんだけど。 そんなことを、思いながら、森をうろうろと軽く駆け、また、木々の間を左右確認しながら、注意深く姿を探す。 やはり、もう中央部にある、湖へ着いてしまったのだろうか。 蛇行しながら探していた足を、目的を定めて駆ける。 森が無くなり、視界の開けた場所へと出た。ソウが居る。背中が見えた。 その後ろ姿を見取ると、リュウは呼吸を整えながら、ゆっくりと歩く。 んん…誰かが一緒に居る? ソウの背中の向こう側から、白いふわりとした衣服が見え隠れする。 少しソウが動いたときに、背に隠れて判らなかった様相が見て取れた。 ブロンドの髪にブルーの瞳。 吸い込まれそうなほど、綺麗な瞳とそして、透けるほどに白い肌の小柄な少女であった。 この森の翠にあって、その存在は特別なもののように見えた。 もしも、女神というものが居るのならば、それは、彼女のようなのかもしれない。 ソウが、ふっとこちらを向いて、目があった。 「……来るなと、云っただろう!」 目があった瞬間そう云われた。その言葉に、足が止まる。 しかし、ソウの様子がおかしかった。 ソウは此方へ来ようとしているのを、少女が腕を掴んで、阻止しているような格好であった。ソウがもがいているようにも見て取れた。 もう一度、ソウの慌てる声が、聞こえたときには、俺は既に走っていたのだった。 |
*7 謎 ▲ ソウが鋭い声を上げる。 ソウはいつだって笑っている。声だって、荒立てたことなど無いのだ。 それなのに、今のソウは、笑みどころか、余裕のない表情をしている。 この島には、動物も虫も居ない。まして、未開発で人の手が加わっていない。この島に住人は居ない。そして、森の中心部。しかも、小川の水面に立っている。 瞬時で、彼女が大河の精霊だと、リュウは判断した。 駆け寄りながら、エナジーを掌へと集中させる。 球状のエネルギーの凝縮したものが出来上がる。魔法生物特有のものである。自己のエネルギーを一点に集めた力を相手へとぶつける技である。 それは、マスターである、冒険者が接近戦をした場合の、援護にもなるし、対中長距離を得意とする者に対して、十分に対応が出来るのである。 間合いを詰めながら、ソウと向うに居る相手との重なり合わない隙間に狙いを定める。 とにかく、ソウの腕を放してもらえれば、よかった。 威嚇的な意味合いも込めて、微弱なエナジーを放つと共に、自らも2人に近づく。 ライアは、短い悲鳴をあげ、ソウの腕を放し、両手を自分の胸元に持ってきて、防御の体制を取る。 走りながら近寄ってきたソウは、それを見て取る。 大河の精霊であれば、微弱なエナジーを受けても、かすり傷程度で済むほどの弱弱しい威力のものである、大丈夫であろう。 強大な力だと、コントロールも狂うことがある。力とは強弱と制御力のつり合いの上に成り立つことが多いのだ。 なので、狙った場所に正確に当たるだろう。 そんなことを考えた瞬間、彼女の姿が消えて、ソウの顔が瞳に飛び込んできた。 ソウにあたる! しかし、そう思ったときには、既にエネルギー体は自分の手を離れていた。 スローモーションのように、そのエネルギー球は、ソウの腕に当たった。 あ! っと声を上げたのは、リュウであった。 一瞬ソウの顔が痛みで歪む。が、ソウは自分のすぐ近くに居るリュウの顔を見ると、 仕方ないな。という感じの笑いを向けながら、 「馬鹿だなぁ。」 と一言、驚きのあまり声も出せずに、呆然と立ち尽くしているリュウに向かって云う。 「……な……。」 「ん……駄目じゃないか。ここに実は無いんだぞ。」 ソウは、リュウの手が赤くなって居るのを見て、すかさずリュウの手を取り、傷の部分を見ながら云う。 「そ…そんなことは、どうでもいいだろう。」 リュウはソウに軽く握られた手を自分の胸元へと慌てて戻す。 「大丈夫なら、いいんだよ。」 「大丈夫じゃないのは、お前の方だろ。……あの…。」 「ん。あぁ。こんなのかすり傷程度だろ。」 ソウは自分の負傷した腕を見ながら云う。 それをバツの悪そうな顔で、リュウは見た。手をソウの方へと伸ばそうか如何しようかと、躊躇っていると、 気にしない。気にしない。 そういって、ソウはいつもの笑顔をリュウに向ける。 さて、そういうわけでね…。 そういいながら、小川の水面に立ち尽くすライアの方に向きを変えながらソウが話を切り出した。 「この子はね、僕の大切な相棒なんだ。だから、君には僕をあげるよ。」 『な…』 短い驚きを発したのは、ライアとリュウであった。 ― 精霊や魔法生物が人になれる。という話は、聞いたことがないんだ。でも、君が言ってることが嘘か本当のことか、俺には、判らない。 だけど、最後の1人だけが、必要だというのなら、俺の命一つを吸い取ればいい。― ― イヤよ。貴方を殺すなんて…あの人を…。だって、黒い影はあの人が去って嘆き悲しんでいた私に、囁いたわ。 他の生命を全部吸い取れば人になれるって。 ― ライアは、首を振りながら、堰を切ったように話始めた。 ― 精霊については、謎が多い。だけど、精霊は自然環境からエネルギーを得て生きている。君がこの島の生命を全部取り入れてしまえば、自然環境は破壊され、君自身の死活問題になるんだ。今の君の話を聞いていると、悪意のあるモノが君に嘘を囁いて、人を襲わせるように仕向けたとしか思えない。君が居なくなれば、この島自体が瀕死になることは避けられないだろう。― 「ま、まさか…」 ライアとリュウはソウの話に驚きを隠せなかった。 「って、思ったんだけど。それでも、君は襲おうと思う?」 「イヤよ。人になれない。ううん。逆に自分が消滅してしまうかも知れないのに…。」 「精霊が人の形を保つのはエネルギーを大量に消費するし、その姿を絶えず見せていることは、難しいことなんだ。元の姿に戻りなよ。」 「えぇ。そうね。ソウの云うとおりだわ。」 ライアは、一筋の涙を流す。 最初は人の姿になれるのが嬉しかった。だけど、いつも力を放出して、絶えず他の生命を取り入れなければならない事に、疲れていた。 けど、一度人の姿を手に入れると、元に戻るのが怖くって、次は人の形にはなれないんじゃないのかって、恐怖心があったの。 一度自分の望むものを手に入れたら、手放すときは、怖いよな。 ソウは、そういってライアに微笑んだ。 最後にあなたに会えて、よかったわ。 ライアは、涙目になりながらも、少し、頬を上げにこりとした。 「ありがとう。」 そう云った後、ライアは水面に浮きながら、うずくまるような姿勢になった。 すると、球体の綺麗な玉へと変化した。 それは、とても透き通っており、夕日を浴びて、少しだけ朱色に染まった。 その球体は、そのまま小川へと沈んでいった。 「バイバイ……。ライア。」 ソウは小川の底をジッと眺めた後、ポツリと呟いた。 |
*8 永遠に ▲ じゃあ、俺たちも帰ろうか。 そう切り出したのは、ソウの方であった。何時ものように、喋り調子は軽い。 俺はというと、何かを云わなければと、必死で考えたのだが、結局言葉に出来ないまま無言で、ソウの後に続いた。 足取り軽く歩く、ソウの背中を、暫し見る。 結局、何を確かめに行ったのか。そして、何故、あのような結末になったのか。 ソウは、何も云わなかった。 ソウが何も云わない以上、到底俺に判るはずも無かった。 「なに、難しい顔して歩いてるんだよ。そんなんじゃ、嫁のもらい手がなくなるぞ。 スマイル。スマイルー。」 不意に、ソウが口を開く。そして、いつもの、ふざけた物言いであった。 我に返ったリュウは、ハァ。とため息をついた。 ソウは、人差し指を頬に当てて、にっこり笑顔を作っていた。 何も切り出さないソウの背中を見ていると、何も聞かなくても、いいような気になっていた。結局、アイツの問題は、アイツが結論をだすしかないのだ。 しかし、いつのもアイツの笑顔を見た瞬間、アイツの好奇心に感化されたせいだろうか。 あの湖で、何があったんだよ。 口を開くと、自然にこの言葉が、出てきた。 「んん? ……聞きたいのか。そうか、そうか。ライアと何があったか、リュウはしりたいのかぁ。」 ソウは、一瞬だけ素の顔に戻ったが、すぐに花が咲いたような笑みで、満足げに云う。 リュウが尋ねてくるとは、思ってなかったのかもしれない。 …やっぱり、云うんじゃなかった。 と、後悔したときには、既にソウは喋る気満々の体制に入っていた。 ライアは、自ら大河の女神だと、名乗ったのだという。 そして、あと一つ命を貰えば人になれるという。そして、ソウのことは、 対象外だったらしい。 どうやら、命の危機にあったのは、俺の方だった…らしい。 結局、伝説の禽の姿も森の中で見かけることは、無かった。 「なるほど。俺は俺で、ソウの方が危機にあっていると思ってたんだ。」 「いやぁ。あんなリュウは滅多に見れないからな。貴重な体験だぜ。」 ケラケラと笑いながら、ソウが云う。 「うるさいな。さっさと先を続けろ。」 ライアの話を聞いているうちに、故郷セイリンの世界で、精霊が人の形を保つのは難しいのだ。と、ハガルが云っていたのを思い出したのだ。 知性を保ちつつ人の姿を一生保つのには、莫大なエネルギーがいるのだ。 なので、故郷セイリンでは精霊の姿を見かけることは少ないし、霊峰という山に住んでいるというのも、自然の過剰に出たエネルギーを分けてもらいやすいからなのだろう。 月読帝國独特の魔法生物は、精霊の過剰エネルギー体が生み出した微弱なものである。が、冒険者と共生することによって、効率よくエネルギー摂取、いわゆる実類を食べることが出来るのだ。 この実を効率よく摂取しなければ、消えてしまうのは、姿を保てない。ということであろう。 冒険者と共生をしない魔法生物は、結局、冒険者を襲ったり、魔王の配下に入ったりして、冒険者から見れば、悪いことをするのだ。 しかし、エネルギーの補給という観念からのみ考えたら、マスターの居ない魔法生物は、襲わざるを得ない。という側面があるのかも知れない。 冒険者の説得に応じる魔法生物は、気のあった冒険者との共生。または、帝國の転売局預かり地域にて、必要に応じて、その特性を生かした手伝いをしている。 それでも、ライアをそそのかした悪意あるモノが存在しているのも確かで、結局、いたちごっこなのかも知れないな。と、ソウは話を結んだ。 「ただ、ライアの知ってる人間に、俺が似てたんだってさ。まあ、そのお陰で命拾いしたんだけどね。」 「お得な顔だったわけだ。」 「なんだよ。それ。」 「別に。」 リュウは、ふぃとソッポを向く。 「………妬くな。」 「は……あ!? なんで、お前はそう突拍子も無い台詞を云うんだ。」 リュウは、素っ頓狂な大声を出した。 ソウは、その声に少々吃驚した後に、あはは。と、短く笑った。 「ほら、空軍の人が、迎えに来てくれたみたいだぞ。」 ソウは前方を指差すと、手を振っている空軍の人の姿が見えた。 ソウも向うに向かって、手を振る。 俺はというと、相変わらずため息しか出なかった。 こうして、この島で一夜を過ごして、俺たちは無事に帝都へと帰ったのであった。 結局、劉緋の涙という文献にあった、鳳寿という禽には出会えなかった。 しかし、その禽が流した涙だといわれる透明な玉というのは、ひょっとしたら、 大河の精霊のことを指しているのかも知れない。 劉というのは、その精霊に装飾を施した。ということなのだろうか。 そして、ソウのことを似ていると感じたのは、やはり、血筋……というか、 その雰囲気が似ていたのかも知れない。 ま、ソウの疑問というか、謎解きというか、そういうのは、判らなくてもいい時もあるのかもしれない。 文献は、永遠に好奇心の対照となりえたのだから、これからも、ソウとの冒険はつづくんだろうな。 と、翌日帝都へと向かうワイバーンに乗りながら、ソウの昨日の話を思い出していたのであった。 = FIN = |
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