Another story 〜 レン故郷に帰る(異世界 〜
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レン様の作品集の一つです。 →本編はこちら 文章の内容からすると帝國のサーバーが一時的にダウンして、その間にサーバー移転した時の事だと思いまする(´▽`) いやっはあの時のゴタゴタがこんな素敵な物語に。 ビックリなのですw そしてその間に姉弟の間にこんなストーリーが……。 文/レン様 *1 霧の中(起 / *2 霧の中(承 / *3 霧の中(転 / *4 霧の中(結 / *5 霧の中(終 |
*1 霧の中(起 ▲ それは、初めてのことだった。 月読帝國の上空に雲が立ち込め、そして、太陽は閉ざされてしまったのだ。 風は止み、そして、作物は思うように育たず、人々の行動は制限されることとなったのだ。 これは、月読帝國に、何かしらの異変が起こったとしか、考えられない。 誰もが、不安を抱き、そして、どのように行動をして良いのか、戸惑っていた。 街角の掲示板にも、帝國からの文書には「目下、調査中。」という張り紙があり、そして、憩いの場である、月猫亭の入口付近には冒険者たちからのメッセージがコルクボードに貼り付けられていた。 心配の声から、今日の状態はこうだったという報告など、それぞれの冒険者が、情報を持ち寄り、メッセージに目を通し、帝國の天変地異にも等しい前触れの状態を気にかけていた。 冒険者たちは、決断を迫られていた。 一体何が起こったのか、それは、部分的に断片的にしか、わからなかったのだ。 情報が途切れることは、無力に等しい。 情報のパイプラインの確保をしないと、帝國自体が霧の中へと隠れてしまうかも知れない。 レンソウも例外ではなかった。 ソウは釣りの合間に作物を育てていたのだが、思うように水を与えられずにいた。 レンは市場で売ったものを、福引屋で、品物と交換しようにも、思うように外出が出来ず、福引屋まで、歩くことすら出来ずに、ブースでの待機となった。 何とかソウが市場まで霧の中を帰宅することができた。そして、レンと合流を果たしたのであった。 |
*2 霧の中(承 ▲ 「レン姉……」 「あぁ。ソウか。よくぞ月彩村から、帝都まで、帰ってこれたな。」 「まぁ、何とかね。数時間かかる道のりを1日以上かけないといけないほど、この立ち込めた霧は、やっかいだったぜ。」 ソウは鈴猫の扉を開ける。レンは、扉まで駆け寄りソウの後ろにいた魔法獣たちに、入るように促す。 鈴猫の本部にレンソウそして、魔法獣たち皆が集まった。何か良くないことになり、連絡が思うように取れないので、一箇所に集まることにしたのであった。 レンがいつも座っている場所を中心に円形に陣をとり、それぞれが、椅子に座ったり、椅子の数が足りずに、机の上に腰掛けたりして、それぞれが、場所をとる。 レンの横にはソウ。そして魔法獣の呉葉がいた。 それぞれの落ち着き場所が決まるのを待って、レンが話を切り出した。 「帝國が不安定なのだが、一度、故郷に帰ろうと思う。」 「え?」 短く言葉を発したのはソウであった。 それは、思いもかけない言葉であった。魔法獣たちも言葉こそ出さなかったが、不安な面持ちを隠しきれなかった。 レンは一度ぐるりと魔法獣たちを見回した。 「少し前から決めていたのだ。そして、月読帝國が不安定である以上、少し予定を早めて、一度故郷へいって、片をつけてこようと思っているのだ。」 「ちょ……ちょっと、片を付けるって……?」 「ふむ。16歳の誕生日まで、残り半年だ。なので、故郷セイリンに戻って、この案件を片付けてこようと思うのだ。」 レンはソウに向き合って、云った。 「レン姉。セイリンを継ぐのか?」 「そのつもりだが。」 「だったら、その話には俺も関係があるだろ?」 「ソウには関係の無い話し合いだ。ソウはここに残れ。」 「嫌だ。」 「……………………。」 レンとソウは互いに向き合ったまま、相手をキッと見つめたまま動かなくなった。 事情のよく飲み込めない魔法獣たちは二人の成り行きを見守るしかなく。それは、息をするのさえ躊躇われるほど緊張を強いられる場となっていた。 10人の魔法獣たちは、口を閉じ身じろぐ事無く、レンかソウの次の言葉を待ったのであった。 |
*3 霧の中(転 ▲ レンとソウの故郷には、セイリン領の領主が守らなければならないことが、あった。 まず、セイリンでは、男女関係なく、先に誕生した者が跡を継ぐことになっていたのだ。 そして、領地を継ぐのは16歳の誕生日となっていたのである。 その16歳の誕生日まで、後半年ぐらいであった。 レンとソウは双子である。先にレンが10数分先に生まれたから、レンが次の領主になる。と、決められていた。とにかく、先に世に生まれ出た。ということだ。 しかし、双子である。たった10分そこそこの違いで、運命が別れるのは、漠然とした問題としてソウの心の内にあったのだ。 そして、レンの奔放な性格。何でもやりたいことにはドンドン挑戦していくその姿勢からは、言葉は悪いかも知れないが、保守的な、親の跡を継ぐ。という言葉とどうしても、結びつかなかったのだ。 いざとなれば、「ソウ、お前がついでくれ。」の一言で、自分のしたいことをすると思っていたのも事実だ。 心の中で、ひょっとして俺が継ぐかも知れないな。などと漠然と考えたものだ。 「逃げるのか?」 「逃げ……て、など………。」 レンは腕を組んで、俺を見据える。 「お前に、故郷セイリンは任せられない。ここに残れ。」 「な、な……んで、……。」 俺はというと、レンのきっぱりとした口調とは対照的に、鼻がツントきて、涙をこらえるのに必死になり、思うように言葉が出てこなかった。 なんだか、悲しい気分になった。 レン姉に置いてかれるような、そんな絶望ともとれる感情。いや、逃げるな。と、見透かされているかのような言葉への、自己嫌悪感。それとも、領主にふさわしくないときっぱりと云われ自尊心が傷ついたのだろうか。 色々な感情が渦を巻いて心を支配して、そして、思考を停止させてしまった。 もう、何も考えることが出来ずに、うつろな目を足元へとやった。レンをまともに見ることが出来ない。 ふぅ。という短いレンのため息が聞こえた。 そして、ため息のあと、「とにかく、決めた。私のIDナンバーは、冒険局へ云って凍結してもらう。後はソウに従うように。」 と、レンは魔法獣たちに向けて話を続けた。 |
*4 霧の中(結 ▲ レンは情報の精霊アンサズに光の精霊のダエグへと続くゲートを呼び出してもらい、そのゲートへと姿を消した。 俺と魔法獣たちはレン姉を見送った。レンの体は扉の光に包まれて、そして、ゆっくりとゲートは閉じた。 そのご、帝國内はますます、濃い霧に包まれて、辺りは真っ白になり、全く見通しが利かなくなった。 手紙屋はもちろん、帝都の王宮に行くことすら出来ず、ひたすら自宅で待つこととなったのであった。 「レンは無事に故郷へつけたのでしょうか。」 呉葉が、窓際に立って、そう呟いた。 「そうですわね……。レンは手紙をマメに書いていましたのに。」 呉葉の言葉を受けて、ヒビキが返答した。 俺は、呉葉とヒビキのやり取りを、黙って聞いてた。レンが旅立って、1週間以上が経とうとしていた。そこへ、帝國の新聞の号外が各冒険者宅。またはブースへと配られ、それは、月猫亭にも、張られることとなった。 その文書によると、この霧の中に閉じ込められた、月読帝國の時間軸を少し巻き戻して、霧に包まれる前の状態へと転送するという案が書かれていた。 帝國の陛下が決断を下し、宰相以下首脳陣があつまり、実行に移すのだという。 ここは魔法と精霊の国である。 しかし、帝國全土の転送など、できるのであろうか。多少の不安を残しつつも、それは決行されることとなったのであった。 迷子になりそうな冒険者たちも、月猫亭に立ち寄り、そして、月猫亭の扉を出ると、新天地へと移動できるようになっていた。 また、号外に書かれている呪文を唱えると、時間軸のずれた帝國へと移動ができるのであった。 霧に包まれた帝國の時間軸を戻してしまおうという、壮大な計画。しかし、冒険者たちの時間まで遡ることは出来ず、ちょうど去り行く冒険者たちも出ることとなった。ちょうど霧に包まれている間に他の異世界へ行ってしまった者も多少なりいたのである。 帝國全土の移転は完了したが、冒険者たちの空白の1週間を取り戻すことは出来なかった。それは、人の過去の人生には魔法であろうとも、精霊であろうとも不可侵の領域である。去るものを止めることは出来なかった。 そして、冒険者全員が空白の1週間からの再スタートをきることとなったのであった。 |
*5 霧の中(終 ▲ 帝國の移転は完了し、さらに数日が過ぎた。 帝國が落ち着きを取り戻しつつある中、一番懸念していた農作物は全部枯れ草と化していた。 仕方が無い。過去へ戻ってまで、不思議なタネまで戻すことは出来ないのである。 それは、枯れて生命というものを感じられなくなっていたからだ。このタネは、10時間以上水を与えないと、枯れてしまうのである。 寿命のあるものを魔法でも精霊でも呼び戻すことは、出来ない。 農作地を一度綺麗にして、再び不思議なタネを蒔いた。水をやれば、半日後には何かしらの実をつけるであろう。 それをやり終えると、釣りに取り掛かろうと、持ってきていた釣竿を出した。 そのとき、威勢のいい声で、手紙だよ。という声を掛けられた。 情報である手紙屋もスッカリと復活していた。裏表を見ても、宛先も、宛名も書かれていない、真っ白い封筒。 「ま……まさか……。」 ソウは、今さっき取り出した釣竿を無造作に仕舞うと、駆けた。 この真っ白い封筒。そして、宛名も書かれていない。この差出人が誰なのか、封書を空けるまでもないだろう。 レン姉に、決まっている。こんな手紙の送り付け方をしてくるのは、一人しかありえない。 ソウは手紙に目を通すことも無く、走りながらその手紙をポケットに仕舞いこんだ。 「レン姉……?」 「あぁ、ソウか。」 鈴猫の扉を開けると、窓を開けているレンが振り向いた。 ソウは、レンの何時もの笑顔を見て、何かホッとした。 「冒険局に行って、IDナンバーの凍結解除をしてきたぞ。」 「あ……でも、セイリン領を継ぐって……のは?」 「あぁ、アレは問題ない。」 「いや、問題ありだと思う……。」 ソウは鈴猫に置かれている一脚の椅子に腰をすえた。レンは、次の窓を開けながら、返事をする。 何がどうなって、そして、レン姉が再び月読帝國に居るんだ? 大体、16歳の誕生日まで、まだ数ヶ月あるとしても、数ヶ月で帰還するのなら、来ることも無いだろうに。 「何を難しい顔をしているのだ。」 「だって……16歳まであと少しだろ? もう、帰ってこないんだと思っていた。」 「はははっ。その件なら大丈夫だ。私はセイリン領の代表としてここへきたのだ。」 「いや、それならなおさらID復活させることも……。」 「私は、ちゃんと親を説得してきたぞ。そして、月読帝國と商売の国交を結ぶ代わり、というわけではないが、魔王討伐に助力し、貢献しよう。と、話をつけて来た。」 セイリン領は資源に乏しい。農作物もあまり、種類が豊富ではない。取れるものといえば玉(宝石)しかない。しかし、ここ月読帝國は農作物、その他、色々な交易品が多い。セイリン領としては、ぜひとも、国交を結びたいのだ。 そして、この帝國で過ごして陛下とそして側近の有能さとお人柄は、体験済みだ。信頼にも値する。 淡々と話すレン姉の言葉を、俺は、感心しながら聞いていた。 レンは、全部の窓を開け終えると、ソウの前にある、椅子に腰掛けた。 「あ。でも、セイリンの領主自ら、魔王の討伐で長期不在なのも……」 「最初にいっただろう。問題ない。……」 レンは、苦笑いを浮かべ、ちゃんと、代理は立ててきたぞ。そう言葉を続けた。 「代理?」 「あぁ、有能な人だ。」 そうだな、例えるならマーチル姐さんみたいに強くて、コウ兄ぃ見たいに知略に長けて、ナツ兄ぃみたいに優しくて、ゆんちゃんのように、努力家な人だ。 レンは嬉しそうに、そう云った。 「そんな人、居るのか?」 「居ないよ。理想な人を云ったのだから……だが、ソレに近い人を据えてきた。」 「…………。」 レンはクスクスと笑う。俺は狐に摘まれた感じがした。 「夏省に所属で、私たちの師匠だ。その人に代理を頼んでおいた。彼は、信頼もおけるし、まあ、何よりも……おっと。それよりも、魔法獣たちを迎えに行きたいな。」 そういうと、レンは立ち、ソウの腕を引き上げる。 いまいち事情が飲み込めない。が、レン姉が、問題ない。というのなら、きっと故郷セイリンの方も、問題が一応の決着がついたのだろう。 「あぁ。そうだな。」 ソウも立ち上がる。 「ソウよ。これからも、宜しくな。そして、目標は魔王の討伐だぞ。」 レンはソウの腕をひっぱり、颯爽とした足取りで、鈴猫を後にしたのであった。 〜 FIN 〜 |
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